新刊

母ちゃんのフラフープ

母ちゃんのフラフープ

親が死ぬのはずっと先のことだと思っていた。だけど、その日は容赦なく訪れる。そのときどんなお別れができるだろう?

著者 田村 淳
ジャンル 文学・芸術
出版年月日 2021/05/31
ISBN 9784893089427
判型・ページ数 4-6・256ページ
定価 本体1,400円+税
在庫 在庫あり

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誰もがそうとは言わないが、親とは二回、別れがある。

 一度目の別れは、子どもが実家を出ていくとき。
 二度目の別れは、親がこの世を出ていくときだ。


 やがて和室に僕と母ちゃんのふたりだけになった。
 「帰って来られてよかったな、母ちゃん」 
 母ちゃんは、しばらく黙ったままだったが、
 ふいに目を開けた。
 「あつし」
 「うん?」
 「あした、病院に、戻らんといかんでしょう。
  このままここで死んだら、お父ちゃんに、迷惑、かかるし」
 「そんなことを言うのはまだ早いんじゃない?」
 ううん、と母ちゃんは小さく首を横に振る。
 「もうしんどいわ。次に病院に戻ったら、
  痛み止めのモルヒネ、
どんどん打ってもらう。
  今しか、ない。だから、なんでも言っておいてな」

 強い瞳で僕を見る。
   ヘンだな。いざ母親と向き合うと、何を話していいのか思い浮かばない。
   僕は喋りを商売にしているくせに。
   本当は山のように話したいことがあるはずなのに。

 ・・・・本書「プロローグ」より・・・・

2020年8月。コロナ禍の中、
がん終末期で入院中の母・久仁子(くにこ)は、
72歳の誕生日をどうしても自宅でお祝いしたいと願う。
痛い、苦しいと言ったら、
一時退院の許可が下りないかもしれないと考え、
最後の力を振り絞る。
久仁子は、一切の延命治療を拒否。
尊厳死宣言書を残し、自分の最期を決めていた。
まだ生きていてほしい。だけど……
旅立つ本人の希望を、
息子は、夫は、どのように受け入れたのか? 

 ~どの家族のお別れも、「世界に一つだけの物語」~


田村淳 慶応義塾大学大学院2020年度修士論文も一部抜粋して収録!



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