悔しくて第一夜 『タモリ論』―― 天才・樋口毅宏さんに掘り起こされる団塊ジュニアのテレビ魂!

他社本のタイトルが悔しくて今夜も眠れない、不惑な編集長のブログ

男の人はいくつになっても頭の中でいっつも、エロいことばかり考えてるというけれど、本当なんだろうか。でも思えば私も20代の頃は、恋愛とセックスのことばっかり考えていた。どうやって会社サボって、こっそり待ち合わせしようかとか、今日はデートのあとお泊まりかな、やべえ今日わたしどんな下着つけたっけ、とか。
                
30代の頃は何考えていただろう。直近過ぎて、モテキも過ぎてて何も思い出せない。いつ結婚するんだろう、とか。いつ旅行に行こうかとか、いつ子ども生むのかなとか。いやその前に、いつ仕事で一人前になれるのかな? とかだった、たぶん。

そんな30代の夢と不安は、もろもろが諦念に変わって、不惑となった今。頭の中でいっつも本の企画のこととか、今度の新刊どう売ろうかなとか、次の健康診断までにガンマ-GTP下げないと、社内のオッサン達にまた負けちゃうとか、そんなことしか考えられない40代になってしまった。色気なさすぎて泣けてくる。

自分にすっかり色気はなくなったけれど、本屋さんに行けば、他社の本のタイトルをちら見して、ひとり色めきだってしまう。やべえこのタイトル、いいじゃん。売れそうだなって。愛とか恋とかで眠れなくなる日は遠い過去の記憶だが、他社本のタイトルが悔しくて今夜も眠れない。そんな不惑な編集長の、あてどないジェラシー満載のしょうもない読書ブログ。

悔しくて第一夜「タモリ論 ―――
天才・樋口毅宏さんに掘り起こされる団塊ジュニアのテレビ魂!」

1972年生まれの私は団塊ジュニアのひょうきん族世代。同世代はたぶん、多くの人が同じ経験を持っていると思うが、思春期とともに、「オレたちひょうきん族」ブームはやってきた。それまで土曜日の夜8時といえば、家族みんなで居間のテレビで「8時だョ!全員集合」を見て家族団らんを感じる、というのが当たり前の慣例だった。退屈な学校が昼間で終わり(週休二日制なんて知らん)、一週間で一番心がときめく時間だった。そんな昭和サラリーマン世帯の家族の団らんを、「オレたちひょうきん族」が壊した。

あれは確か小学校3年生のときだ。クラスは「全員集合派」と「ひょうきん族派」にあきらかに二分されていた。私はまだ「全員集合」派だった。でも気が付いた、意識高い系の小3から、「ひょうきん族派」に転向しているのを。長いものには巻かれたい。私はある土曜日の夜、高らかに宣言したのだ。「今日から二階のちっちゃいテレビでひとりでひょうきん族を観るからね!」って。哀しそうなおばあちゃんの顏。怒りを帯びたパパの顏。はじめての娘の、ひとり立ちだった。これが、思春期の入り口の入り口だった。そして、おそるおそるチャンネルを「8」にした二階の部屋のテレビから、今まで知らなかった、毒っ気あふれる大人の笑いが飛び出してきた。家族で観なくてよかった、と思った。

だから私の中では、「お笑いBIG3」といえば、たけしさんであり、さんまさんであり、…タモリさんはえっと、ものすごい人だけれど自分の思春期とか青春とは関係ない、お昼の人。学校をさぼったときにたまに見る人。そんな位置づけで生きてきた。じわじわ好きになったのは、飲み会のない金曜の夜の「タモリ倶楽部」が分かる年頃になってから。それなのに、だ。大傑作『さらば雑司ヶ谷』等でキラ星のごとく文壇に登場された団塊ジュニアの星・樋口毅宏さんが、「たけし論」でもなく、「さんま論」でもなく、『タモリ論』を出版するなんて! 

 ……さて、私がこの本の担当編集者なら、ずうずうしくも、著者にこう相談してしまっていただろう。「タモリ論というタイトルをつけるよりも、BIG3論というタイトルにしたほうが、読者の網が広がりますよ。そのほうが売れると思うんですけどねえ」と。想像して、自分に嫌気がさした。これは、「BIG3論」ではなくて、『タモリ論』だから、売れたのだ。しかしもちろん、本書の中では、たけし論もさんま論も、今まで誰も語らなかったことを鋭い目線で抉っている。だけどタイトルは、『タモリ論』とした。
ずるい。そりゃ、手に取るよ。

私はかなりBIG3に関してはいろいろ見てきたつもりでいたけど、知らなかった驚くべき逸話が、たくさんあった。勿体ないからここでは紹介しないけど。タイトルも上手いが、構成も上手すぎる。つかみで赤塚不二夫氏の告別式でタモリさんが読み上げた弔辞を紹介するのもずるいし。伝説の、「いいとも!有吉佐和子さん事件」の真相もわかったし、たけしさんの章が、ジャン、ジャン!で〆ているのもニヤリとさせられるし、さんまさんの章に、ブラックデビル誕生の知る人ぞ知るエピソードがあるのも、憎い。

それでもって、扉の裏に載っているタモリさんの言葉。
「難しいことを難しいまま言うやつ、あれ、馬鹿だよね」

……これに尽きる。

おそらく、これ以上の論評は今後出版されないであろうBIG3論。もとい、『タモリ論』。著者の樋口毅宏さんは、超難解なテーマを、とても柔らかに、軽やかに論じられのだ。すごい。……この人に、一冊本を書いてもらいたいな。でも、今や超売れっ子となったこの著者さんにヤワな原稿依頼したら断られるんだろうな。

「帰ってよ」って。

2013年9月 小宮記
『タモリ論』樋口毅宏著 (新潮新書/2013年7月発売)

『タモリ論』樋口毅宏著 (新潮新書/2013年7月発売)