Vol. 3 ヒゲが光る:美しいものには気をつけろ

深海魚通信

みなさん、こんにちは。
尼岡邦夫です。

前回、前々回と、チョウチンアンコウ類の頭の上にあるルアーについてお話しましたが、第3回目は下あごに生えた【光るヒゲ】のお話です。

街を歩いていると、たまに“あごひげ”をたくわえた人を見かけます。私はその時、深海魚を思い出して、何のためだろうかと考えたりします。深海魚のなかには下あごにヒゲを生やしたものがたくさんいますが、決してオシャレのためではありません。では、何のためのものなのでしょうか?

1) ホテイエソ類、トカゲハダカ類のヒゲ

 

ヒゲを生やした種として、ホテイエソ類、トカゲハダカ類などがいます(図1、図2)。ヒゲの長さは種によって違い、もっとも長いグラマトストミアスのヒゲは体長の7倍ほどもあります。先端部の形も、細長い針状のもの、マッチ棒のように先が丸くなったもの、ヒョウタン形のもの、細かく枝分れしたものなど様々で(図3)、私たち研究者はこれらの違いから種名を調べたりします。
先端部には発光器があり、発光器が光るとまるで手持ち花火が弾けているかのように美しいです。しかしこれも、美しさを競っているわけではありません。この光に魅せられて集まってきた餌生物を捕食するのです。ほかにも、点滅させることで仲間との交信に使っています。また、先端に発光器のないものは、餌を探す感覚器官として使っているようです。


図1 : ロウソクホシエソ (ホテイエソ科 / ⓒ 山本みつ美ほか2011)

図1 : ロウソクホシエソ (ホテイエソ科 / ⓒ 山本みつ美ほか2011)

図2 :  ロウソクホシエソの発光器

図2 : ロウソクホシエソの発光器

図3 : ホテイエソ類のヒゲのルアー (A ⓒ Beebe 1933 / BE ⓒ Regan & Trewavas 1930 / CDF ⓒ Parin & Pokhilskaya 1974)

図3 : ホテイエソ類のヒゲのルアー (A ⓒ Beebe 1933 / BE ⓒ Regan & Trewavas 1930 / CDF ⓒ Parin & Pokhilskaya 1974)


2)チョウチンアンコウ類のヒゲ

チョウチンアンコウ類にもあごにヒゲを生やしたものがいます。インドオニアンコウは単純な一本のヒゲですが(図4)、オニアンコウやニシオニアンコウのヒゲは根元から多数に枝分かれし、まるで木の根のようです(図5)。光を点滅させるとクリスマスツリーさながらの美しさで、私が深海で遭遇したならば、きっと見惚れてしまうでしょう。ですが、この光に誘惑されて近づけば、<オニアンコウ>の名の通り、そこには恐ろしい鬼の顔が口を開けて待っています。

きれいなバラにはトゲがあるという言葉がありますが、美しい光につられると、その先に大口を開けたモンスターがいるかもしれません。皆さん、来世で深海生物に生まれたとしても、美しい光にはくれぐれも気をつけてください。


図4 : インドオニアンコウ

図4 : インドオニアンコウ

図5 : オニアンコウ

図5 : オニアンコウ