Vol. 11 深海魚のテレビ余録:深海魚は美味しいか ?

深海魚通信

みなさん、こんにちは。
尼岡邦夫です。

前回、前々回と、深海魚が相次いで水揚げされる謎についてお話ししました (Vol.9「今、世間を騒がす深海魚たち①」、Vol. 10 「今、世間を騒がす深海魚たち②」参照 ) 。この件については新聞やニュース番組などでコメントを求められることも多いのですが、実はそんななか、あるバラエティ番組のおもしろい企画に協力することになりました。
番組の企画の趣旨は、「深海魚を食べてみよう ! 」というもの。深海魚が捕れるとレポーター役のタレントさんが駆けつけ、その味を確かめていきます。さて、深海魚はどんな味がするのでしょうか ?

深海魚は水っぽい ?

この番組での私の役割は、「この魚、食べられますか ? 」との問いかけに答えたり、捕れた深海魚の映像を確認して種を同定し、魚の特徴や分布を答えることです。種の決め手になる特徴ははっきりと映っていないことが多いため、これにはいつも疲れてしまいます。何とか手がかりがないか目を凝らします。

第1回目の放送では、サケガシラ、ミツクリザメ、チゴダラ、ガンコ、トウジン、ムネダラ、タナカゲンゲを食べていました。サケガシラに関しては、私も標本にならないくらい壊れた個体や同じく標本にならなかった似た種のリュウグウノツカイを刺し身にして食べてみたことがあります。水っぽくてあまり味がない感じでした。リュウグウノツカイという名前のせいか、あるいは大変珍しい貴重な魚を食べるという罪悪感がそうさせたのかもしれません。番組での味の評価も大体同じでした。


サケガシラ

サケガシラ

トウジン

トウジン

ムネダラ

ムネダラ

この深海魚は食べちゃダメ

味の評価が最悪だったのはミツクリザメです。この魚は前頭部が三角形状に著しく長く突出し、その腹面に収められた大きな口が餌を食べるときにガバッと前方に飛び出します。そして噛みついてすぐに元の位置まで引き戻すのですが、その一連の動きの速さには驚かされます。
標本としての学術的価値が大変高く、珍しい魚です。この魚を食べると聞いたときには、さすがに無謀だと思いました。私は食べたことがありません。そして肝心の食味の評価はというと…「水っぽい」「まずい」「臭い」。ミツクリザメに申し訳ないくらいの最低の評価でした。


ミツクリザメ

ミツクリザメ

昔から食べられている美味しい深海魚

チゴダラはタラ目の仲間で、顎の下に1本のヒゲをたくわえ、お腹のまわりが光るいかにも“深海魚”といった風格の魚です。またの名を「ドンコ」といい、東北地方では昔からよく食べられていますし、函館でも干物で売られています。肉は深海魚独特の柔らかさがありますが、それほどクセはありません。番組では刺し身にして食べていましたが、この魚の評価はやはりよかったです。
ガンコはウラナイカジカ科の魚です。体は平たく、アンコウに似たところがあります。別名「アンコウカジカ」と呼んでいるところもあります。水深200メートルより深い砂泥底にすんでいます。昔から東北地方ではから揚げや鍋物で親しまれている魚で、以前、刺し身で食べたことがありますが、結構美味しかったと記憶していました。番組での評価が一番高かったのもこの魚でした。


チゴダラ

チゴダラ

ガンコ

ガンコ

学術標本としての深海魚
食用としての深海魚

レポーターから「この深海魚は食べることができますか ? 」と聞かれたときに、「大丈夫です」と確信をもって答えることができない魚が多いので苦しいです。私は味による魚の分類を自負していますので、いろいろな種類を食べていますが、奇抜な姿をした珍しい深海魚は壊れたもの以外は食べないことにしています。貴重な学術標本だからです。
今のところ毒のある深海魚は知られていないのですが、深海魚特有の変な油をもっていれば下痢をするかもしれません。自己責任で確かめるしかありません。命まで取られることは無いでしょう。しかし、深海魚は一般的には市場に出ませんが、タナカゲンゲやトウジンなど、地元の漁師が食べているもので大変美味しい魚もたくさんあります。


タナカゲンゲ

タナカゲンゲ

※出典
『深海魚ー暗黒街のモンスターたち』 ( サケガシラ / ムネダラ / ガンコ )
『深海魚ってどんな魚』 ( トウジン / ミツクリザメ / チゴダラ / タナカゲンゲ )