Vol. 12 目無 ? 奥目 ? 粒目 ? : 目をなくした深海魚

深海魚通信

みなさん、こんにちは。
尼岡邦夫です。

気がつけば7月ですね。夏には水族館や熱帯魚屋さんを訪れて、涼を楽しむ人も多いのではないでしょうか。
水族館や熱帯魚屋には、珍しい魚がたくさん泳いでいます。例えば、目のない魚を見て驚かれた人もいるかもしれません。アメリカ大陸にすむサケスズキ目、アンブリヨプシ科のケイブフィッシュ ( 洞穴魚 ) は、暗闇の世界で見る必要がなくなったため、目が退化しました。
…そう、暗闇といえば「深海」です。深海にも、もちろん同じような魚がいます。

第12回目は、深海で目をなくした魚のお話です。

目のない魚

水深1500~3500メートルにすむチョウチンハダカ科のチョウチンハダカは、目が完全にありません。大変珍しい種で、論文ではスケッチを目にすることはあっても、写真を見ることはありませんでした。それが、深海魚の研究会でチョウチンハダカの標本を見る機会が得られ、そのときは興奮して何枚も写真を撮ってしまいました。図1・2がそのときの写真です。
体は棒状で細長く、頭は大きくて、かなり平たいです。背面の目のあるはずの眼窩 ( 眼球を入れるくぼみのこと ) は半月板状で、膜で覆われています。眼球はなくなっていますが、奥に網膜が残っていて、写真のフィルムのように発光生物が出す光を感じることができるようです。
また、4255~5250メートルにすむパシミクロプス レギスにも目がないことがわかっています。
図1 チョウチンハダカ

図1 チョウチンハダカ

図2 チョウチンハダカの頭の背面

図2 チョウチンハダカの頭の背面


奥目の魚

目はあっても、外からははっきりとその存在が確認できない深海魚もいます。ヌタウナギ ( 図3 ) やソコオクメウオ科のアフィヨナス デェラチノウサス( 図4 ) 、ミスジオクメウオなどです。
ヌタウナギ類は目が皮下に潜り込んでしまって外から見えません。大きな魚の体内に潜り込んで肉を食べるために目を必要としなくなったのでしょう。アフィヨナスの目は退化して、皮膚の下に隠れて機能していないようです。科名はそこから由来しています。

図3 ヌタウナギ

図3 ヌタウナギ

図4 アフィヨナス デェラチノウサス

図4 アフィヨナス デェラチノウサス


粒目の魚

フクロウナギ科のフクロウナギ ( 図5 ) やフウセンウナギ科のフウセンウナギ ( 図6 ) など、よく見なければわからないほど目の小さな深海魚もたくさんいます。水深500~7800メートルの暗闇の中で、見ることをあきらめてしまったようです。
その代わりに特別に大きな口をもっています。目と口の大きさに何か逆の相関関係があるのかもしれません。

図5 フクロウナギ

図5 フクロウナギ

図6 フウセンウナギ

図6 フウセンウナギ


また、クサウオ科のオオバンコンニャクウオ ( 図7 ) やクジラウオ科のオオアカクジラウオ ( 図8 ) は目がとてもつぶらです。
オオバンコンニャクウオは腹びれが大きな吸盤状に変化していることからこの和名がつけられましたが、個人的にはツブメコンニャクウオという名でもよかったと思っています。
オオアカクジラウオは知床半島沖から1個体だけ捕れています。体形は鯨型で、小さい目が頭の前半部にあり、横一文字に開いた大きな口がトレードマークです。

図7 オオバンコンニャクウオ

図7 オオバンコンニャクウオ

図8 オオアカクジラウオ

図8 オオアカクジラウオ


見ることをあきらめた深海魚

深海は、比較的浅いところでもかすかな光しか届かず、深くなるほど完全に暗黒の世界が広がります。そこにすむ深海魚たちのなかには、見ようとする努力をあきらめて、目が退化して小さくなり、ついに目の機能や目そのものをなくしてしまった種も少なくありません。
しかし一方で、わずかな光りでも捕らえようとして目を大きくした種もいます。深海魚には、その相反する2つの方向がみられます。2つの生き方、あなたならどちらを選びますか?


※出典
『深海魚ー暗黒街のモンスターたち』『深海魚ってどんな魚』