Vol. 13 これって地球上の生物 ?

深海魚通信

みなさん、こんにちは。
尼岡邦夫です。

夏になると、心霊現象やUFO、宇宙人などの特集をよく目にします。得体の知れないものへの恐怖で肝を冷やすのが狙いなのでしょうが、怖いと思いつつもつい興味を惹かれてしまうから不思議です。
近年の深海生物ブームも、もしかしたらそんなカテゴリーに入るのかもしれません。深海には、私たちの常識からは考えられないような生物がたくさんいます。例えば、『深海魚ってどんな魚』(2013年5月発売)の表紙に載せたミツマタヤリウオの子どもの姿。半透明のひょろ長い体に、頭からビヨ~ンと何かが飛び出した、とても奇妙な姿をしています。これを見た人は、大変驚いたことでしょう。

第13回目は、そんな奇妙な姿をした、ミツマタヤリウオについてお話ししたいと思います。

頭から飛び出したものの正体

本を読んでくださった方はご存知かと思いますが、頭から飛び出したあの突起物は「目」です。正確には、長い柄の先に、目がついています。
このような目を、私たちは「カニ目」と呼んでいます。ソコイワシ科のソコイワシ、ハダカイワシ科のヒカリハダカなどの仔魚は、頭の背面から長い突起が出ていてその先に目がついています ( 図1・図2 ) 。まるでカニの目のようです。
なかでも顕著なのが、このミツマタヤリウオ科のミツマタヤリウオの仔魚です ( 図3 ) 。頭の背側面から頭の2倍以上の長いヒモが飛び出し、その上に円盤状の目がついていて、もはやカニ目とも言えません。

図1 ネッタイソコイワシの仔魚のスケッチ

図1 ネッタイソコイワシの仔魚のスケッチ

図2 ヒカリハダカの仔魚のスケッチ

図2 ヒカリハダカの仔魚のスケッチ

図3 ミツマタヤリウオの仔魚

図3 ミツマタヤリウオの仔魚


この目はジョーク ?

昔、私は論文の中でこの魚のスケッチを見たのですが、そのときはすぐに信じられませんでした。これは誰かのいたずらだろうと思いました。この世のものと思われない姿に驚かされ、何かの間違いではないかと考えていました。個体が壊れていて、再現してスケッチにする際にミスをしたか、あるいは昔見世物小屋に並んでいたカッパなどのように、ジョークで想像上の動物を作り上げたのではないかと思ったほどです ( 図4 ) 。
図4 ミツマタヤリウオの仔魚のスケッチ

図4 ミツマタヤリウオの仔魚のスケッチ


その後、この魚のいろいろな発育段階の子供が捕れ、飛び出した柄がだんだんと短くなり、視神経が頭蓋骨の中に引きこまれて目が頭蓋骨の中に納まる様子が確かめられました ( 図5 ) 。
柄は、最も長いときは体長の25%ほどになり、頭蓋骨から出ている軟骨で支えられ、その中を視神経が通っています ( 図6 ) 。付属している筋肉で自由に動かすことができるので、広い視野を得ることができ、餌や敵を見つけやすくします。また、長く追跡できます。さらに、体を動かさなくても よいので、敵から見つかりづらくなります。餌の少ない深海で進化した特徴です。
図5 目が頭蓋骨に入る様子

図5 目が頭蓋骨に入る様子

図6 カニ目のしくみ ( 柄の黒い帯は柄を支える軟骨 )

図6 カニ目のしくみ ( 柄の黒い帯は柄を支える軟骨 )

図7 ミツマタヤリウオの成魚

図7 ミツマタヤリウオの成魚


最近、深海魚の研究会に参加したとき、たくさんの深海魚のコレクションの中から完全な状態のこの仔魚が出てきて、夢中で撮影しました。『深海魚ってどんな魚』の表紙は、このときの写真を使用しています。これほどまでに完全な姿を収めたのはおそらく初めてで、大変貴重なものです。


※出典
『深海魚ー暗黒街のモンスターたち』『深海魚ってどんな魚』