Vol. 6 ハダカイワシのヤイトと星座:深海と宇宙、どちら派ですか

深海魚通信

みなさん、こんにちは。
尼岡邦夫です。

『深海魚ってどんな魚』を発刊した2013年の初夏からあっという間に季節が過ぎ、気づけば2014年も明けて3週間が経とうとしています。私の住む北海道では連日真冬日を記録し、本当に寒い毎日です。しかし、この季節は空気が澄み、晴れた日には夜空の星がとてもきれいに輝いていますね。

ところで、深海にも夜空に負けない美しい「星」があります。
第6回目は、ハダカイワシのお腹で輝く【星座】のお話です。

ハダカイワシの体にある、ヤイト跡の正体は?

ハダカイワシのことを「ヤイト」と呼ぶ地方があります。ヤイトとは「焼処 ( やきと ) 」が転じた言葉で、お灸の意味。引き揚げられたハダカイワシは鱗がはがれ、裸になった皮膚の上にぽつぽつと灸の跡のような斑点が残っていますが、これを見たその地方の漁師が、「ヤイト」と呼ぶようになったのでしょう ( 図1 )。
このヤイトの斑点は、実はすべて発光器の跡です。ハダカイワシ科、ソトオリイワシ科、トカゲハダカ科、ムネエソ科など多くの深海魚には体の側面や腹面にたくさんの発光器が列をなして並んでいます ( 図2 ) 。
図1 灸の跡のような斑点が見えるハダカイワシの仲間 ( ヒサハダカ )

図1 灸の跡のような斑点が見えるハダカイワシの仲間 ( ヒサハダカ )

図2 いろいろな深海魚の体側の発行器 : (上から) カタホウネンエソ ( ©藍澤正宏 ) 、シチゴイワシ、ヨロイホシエソ

図2 いろいろな深海魚の体側の発行器 : (上から) カタホウネンエソ ( ©藍澤正宏 ) 、シチゴイワシ、ヨロイホシエソ


深海に現れた銀河!? 星座と星雲の輝き

捕れたばかりの新鮮な魚では、発光器が星のように鮮青色に輝きとてもきれいです ( 図3 ) 。発光器の列はところどころで切れたり、乱れたり、群らがったりしているので、それぞれに星座のように名前がつけられています ( 図4 ) 。
さらに驚いたことに、このような発光器以外に、体表のところどころに雲のように漂う青白い発光腺があり、これが光ると星雲のように見えます。真夜中の星空の世界を想像してください。深海はまさしく銀河の世界です。


図3 新鮮なときのヒシハダカの発光器

図3 新鮮なときのヒシハダカの発光器

図4 ハダカイワシの発光器の名称 : AOa 前部臀鰭発光器 AOp 後部臀鰭発光器 PLO 胸鰭上発光器 PO 胸部発光器 Pol 体側後部発光器 Prc 尾鰭前発光器 PVO 胸鰭下発光器 SAO 肛門上発光器 VLO 腹鰭上発光器 VO 腹部発光器 ※横にならんだ発光器は前から、縦にならんだ発光器は下から順番に番号がついている

図4 ハダカイワシの発光器の名称 : AOa 前部臀鰭発光器 AOp 後部臀鰭発光器 PLO 胸鰭上発光器 PO 胸部発光器 Pol 体側後部発光器 Prc 尾鰭前発光器 PVO 胸鰭下発光器 SAO 肛門上発光器 VLO 腹鰭上発光器 VO 腹部発光器 ※横にならんだ発光器は前から、縦にならんだ発光器は下から順番に番号がついている

ハダカイワシの発光器の役割

発光器の数や配列の違いは種を分類するときの重要な特徴になります。種によって違ったパターンの光を発射するので、同じ仲間に合図をおくることができます。雄と雌で発光器が異なる種では、繁殖期の交信に使用します ( 図5 ) 。
腹側面から光を発射すると、敵に見つかりやすいのではないかと思う方もいるでしょう。しかし、光を発することで体の輪郭が消え、下にいる敵からは見えにくくなります ( 図6 ) 。群れでいれば、一層効果が発揮されるでしょう。深海は宇宙と同じくらい、興味が尽きない未知の世界ですね。貴方は深海と宇宙、どちら派ですか?


図5 ホクヨウハダカの雄雌の発光器 : ( 上から ) メス、オス / オスは尾柄の上部と下部に発行腺がある。

図5 ホクヨウハダカの雄雌の発光器 : ( 上から ) メス、オス / オスは尾柄の上部と下部に発行腺がある。

図6 体の輪郭を消す発光

図6 体の輪郭を消す発光