第1回 はじめに…

とくダネ発!がん離婚

妻ががんになったことが原因で、離婚した夫婦がいる、ということを信じられるだろうか?
もし私が今がんになったら、と考えたとき、最初に思ったことは、病気の治療は大変だろうな…髪が抜けたら嫌だな…手術はきっと痛いんだろうな…今の貯金で治療はできるのかな…。それよりも…死ぬかもしれない恐怖って…きっと耐えられない…。

私は幸運にも、まだがんになったことがないから、「自分ががんになったら…」と思いつくのはこの程度。まさか、がんになったことが理由で、夫と離婚するに至った女性がいるなんて、当初は想像もしていなかった。

もし夫がいたら、がんになった自分を支えてくれて当然。心配してくれて当然。だって、私死ぬかもしれないんだよ? 優しくしてくれて当然じゃん! しかし…現実はそうではないらしい。しかも、それはがんになった女性の中でも、とってもとっても稀な一人…。というわけではなかった。
がんになったことで、夫と離婚する事態になる…。

「がんと離婚」。

私はこのテーマで、2013年10月フジテレビの朝の情報番組『とくダネ!』にて特集を放送した。午前8時から10時の間に放送している『とくダネ!』の主な視聴者は、35歳以上のいわゆるF2・F3といわれる女性たちだ。夫を送り出し、子供に朝ご飯を食べさせ、ようやく一息ついた妻たちは、ただののんびりした生活を送るご機嫌な主婦ではない。

アベノミクスになんて騙されず、コツコツ貯金し、夫の健康に気を配り、子供にはちゃんと将来のキャリアにつながるような習い事をさせ、両親の老後について専門的な機関に相談しつつ、それでも夕方になればまた笑顔で家族を迎える…。
ネットを覗けば自分の欲しい情報を選ぶことができる時代、放送されるものが本当に面白いかどうか分からないのに、わざわざ情報番組を見ている主婦たちは、賢く、自分の意思を持ってテレビを選んでいる女性たちだと思う。
実際、『とくダネ!』ではちゃらちゃらした企画を放送したところで、見向きもされない。私たちスタッフは、視聴者である彼女たちの目を信じているし、私個人としては、尊敬すらしている。興味があるテーマは選ばれ、どうでもいい放送をすれば見向きもされない。そんな中、番組内で“女性とがん”についての企画を放送することが決まった。シリーズで放送する3日間のうちの1日を任された私は、“いま、女性たちはがんの何を知りたいと思っているのか”について日々会議を重ねた。

私が『とくダネ!』という番組に携わって、今年で12年目になる。いつまでも気持ちは若手、のつもりだったのが、今や150人ほどいるスタッフの中では中堅ディレクターの立場になっている。よく学生時代の友人に「テレビのディレクターってどんな仕事?」と聞かれるのだが、これに答えるのがなかなか難しい。一言で言うと、「何をやりたいかはっきり言う人」という感じなのだが…。ディレクターは「このテーマでやりたい!」「こんな取材がしたい!」と声を出して言えることが大事で、あとは「こういう画を撮りたい」と言えばカメラマンが撮ってくれるし、「こういう話にしたい」と言えば構成作家が書いてくれるし、「こういう感じに見えるように編集したい」と言えば編集マンがつないでくれる(今は自分でやらされることが多いが、最終的な段階では、その道のプロがやってくれる)。ディレクターとはつまり、VTRをどういう話にしたいのか、見た人に何を伝えたいのか、を明確に説明してその方向に引っ張ってく人、ということになっている。らしい…。

私は、“女性とがん”をテーマに何を伝えたいのか?今、女性ががんという病気になることで、失うものは…!? 直面する問題は…!? 会議を続けていくうちに、言葉にすると薄っぺらいように聞こえるかもしれないが、「女性ががんになることの、本当の意味」「妻ががんになったとき、夫婦に待ち受けている現実」について放送しよう、ということになった。取材するにあたり、とりあえず一番最初にやったことは「とにかくカメラの前で話してくれる女性のがん患者さんを探す」ことだった。
これが一番苦労したのだが…。

もう一人のディレクターと手分けして、全国にある患者会や病院、がん患者への支援を行っているところへ、かたっぱしから電話した。その数は、2人でたぶん300件以上はあったと思う。「フジテレビで『とくダネ!』という番組を担当しております光安と申します。いま女性のがんについて取材をしたいと思っていて、夫婦の問題に悩んでいる患者さんを探しているのですが…」と電話口で何百回言ったか分からない。そして、相手の反応は…「あぁテレビ? いい企画ですね。紹介しますよどうぞどうぞ。患者さんの携帯番号は…」なんてなるわけがない。ほとんどのところから言われたのは「プライバシーの関係で、患者さんの個人情報は教えられません」。そりゃそうだと思う。

だが、この取材相手を探す過程で、私は色々な関係者の方と話すことができた。「うちは患者さんの紹介はできないんだけど、がんになって夫婦関係が悪化することはよくあるんですよ」「是非取り上げてもらいたいテーマです」「なかなか話してくれる人がいないと思うけど、みんな同じことで悩んでるんですよ」「テレビでやってもらって、少しは理解が深まるといんだけどね…」。そう、がん患者に関わってきた人たちはみんな知っていたのだ。がんなんてやっかいな病気になった上に、家族と訣別しなくてはいけない人がいることを。

それから何とか取材に応じてくれる女性患者さんや、その夫たちに話を聞くことができ、放送は無事に終了した。放送自体は、20分弱のコーナーとなったが、放送後、取材を受けてくれた方々、またテレビ取材はしなかったけれど、思いを語ってくれた方々がみな一様におっしゃっていたのは「光安さん。がんが原因で離婚するって、実は特別なことではないんですよ。結局がんになっていない人からすると、がんという病気は夫婦であっても他人事なんです」と。私自身も、今回取材して「女性ががんになったとき、本当はどんなことが起こるのか」という部分で、リアルな話を聞いて、びっくりしたり、身につまされたりした。そしてそれは、本当に自分自身にも起こり得ることで、他人事では全くないなと痛感した。

「もっとこの現実を知ってほしい」「がんという病気について、もっと知ってもらいたい」。取材をして一番痛感したことだ。そしてこの連載は、テレビという媒体では放送できなかった「女性ががんになるという本当の意味」についてもっと伝えたいと思う。

なぜなら、一緒に暮らしている最愛だったはずの妻ががんになってさえ、夫たちはみんな、知るのが怖いのだ。がんが原因で離婚する可能性は、どの夫婦にもある。うちはまさか、なんてことは絶対にない。
これは、「がんになったかわいそうな女性が、さらに最悪な離婚という事態にまで陥ったとっても特別な例」ではない。「どんな夫婦でも、妻ががんになったときに必ず直面する問題」だ。妻ががんになったときの、夫の本音。

それを知る勇気を、世の女性たちは持っているのだろうか。どんな女性でも直面するであろうこの問題をお伝えすることで、妻の立場の女性には「あぁ、こんな悩みを持っているのは自分だけではないんだな」と、少しでも気を楽にしてほしい。夫側にも「妻ががんになったとき、パートナーは何を求めているのか、自分はどうしたらいいのか」を考える小さな小さなきっかけになればいいと思う。

あなたががんになったとき…。
あなたの夫は、何と言うと思いますか?

参考【がん(悪性新生物)患者数の年齢階級別状況】50代までは女性の方が多く、30代で男性の3.3倍、40代で2.4倍。乳がんや子宮がんなど女性特有の病気が30代以降に増えるため。 ©ネット生保@lify.jp

参考【がん(悪性新生物)患者数の年齢階級別状況】50代までは女性の方が多く、30代で男性の3.3倍、40代で2.4倍。乳がんや子宮がんなど女性特有の病気が30代以降に増えるため。 ©ネット生保@lify.jp


光安 和紀 (みつやす・わき)

seki-yuuji
1978年東京都生まれ。現在、フジテレビ『とくダネ!』にてディレクターとして働く。テレビ業界に入って12年目。生放送の番組に携わっているため、深夜業務が続く日が多いが、徹夜明けのビールと焼肉を日々の励みにしている。座右の銘は「切磋琢磨」「一期一会」。好きなタレントはV6の岡田准一さん。放送前になると精神的に追い込まれて、VTRが間に合わない夢を見ることが最近の悩み。