第2回 都市伝説「がんはうつる」の真偽  地方では未だに…

とくダネ発!がん離婚

「がんは、うつる」

これは、実際にある女性がん患者が、夫から浴びせられた言葉だ。

「がん離婚」という事態が特異なケースではない、ということが分かったきっかけになったのは、先に書いた通り、私が取材相手を探すため多くの患者団体や医師たちと話したことによる。

夫に病気を理解されないだけでなく、病気になったのはまるで自分が悪いかのように責められたり、嫌なものを見るような目で見られ、扱われる…。そんな女性たちの取材をしようとした矢先に分かったのが、「がんがきっかけで離婚する」という事実だった。

私が取材を受けてくれる女性がん患者を探す中で、ある地方の患者団体に電話したとき…。
がんが原因で夫婦関係に悩みを持っている女性を探していると告げると、電話口に出た担当者は遠慮がちにこう言った。
「がんが原因で離婚される方は多いんですよ。でも…うちは地方だし…なかなか自分ががんだって公にしたがる人が少ないから、取材は難しいと思いますよ…。ここは東京とは違うんです」
まさに東京から電話をしている私は、一瞬意味が分かりかねた。
「はぁ…取材が難しいのは理解しているんですが…。地方ということが、何か…?」
「今でも、がんはうつるって信じている人がいるんですよ」

がんがうつる…って、インフルエンザと違うんですから!
聞いたときは本当に言葉が出なかった。

今、インターネットの検索サイトで「がん」と打ち込めば、30億件以上のヒットがある。別にそれをつぶさに見なくても、「がんが遺伝でうつる」とか「患者のそばにいるとがんがうつる」なんてことが、全く非科学的だということは誰の目にも明らか。のはずなのだが…。

患者会の担当者の方に聞くと、がんは家系で遺伝するものだと未だ信じている人がいるというのだ。
彼女が話してくれたのは、患者会の郵便物を本人に送ることすら相当の配慮が必要だということだった。
患者さんの中には、郵便物の封筒に「がん」と書いてあるだけで、「あの家の●●さんはがんらしい」ということがあっという間に近所に広まり、「●●家はがん家系」と断定され、その後患者さん自身は表を歩くことすらできなくなるというのだ。
ともすれば、がん専門病院やがんセンターにでも通っているところを、近所の人に見られたら?
その胸の内は、思い図ることもできない…。

特にショックだったのは、子宮頸がんの女性患者さんと話したときのことだ。
この女性も、ある地方都市に住む方で、患者会を主催している人から紹介してもらった。結局取材を受けてもらうことはできなかったのだが、彼女は「夫は私の病気について全く理解してくれない。夫とはもう離婚したい。でもお金がないから離婚できない」と切々と訴えた。

最初私は内心、まぁまぁ、旦那さんだって仕事しながらがんの奥さんと暮らしていれば、そりゃ大変な思いをしていると思いますよ。離婚なんてそこまで思いつめなくても…と思っていたのだが、それがどんなに薄っぺらい考えか、思い知らされた。

「娘が…娘がいるんですが、夫に『お前のせいで、娘も同じがんになる』と言われて…」

まさか、病気について一番理解してくれているはずの夫が、そんなことを言うなんて…。
彼女は夫のその一言から立ち直れずに、だが家族以外に自分ががんであることを誰にも言えずに、仕事も辞め、ひっそりと自宅に引きこもって生活しているのだという。

いったい、なぜこのような事態になるのか?
それは、夫たちが「がんを他人事だと思っている」ということに尽きるのだが…。ではその背景にあるのは何なのか?
前回ご紹介した厚生労働省のデータをもう一度見てほしい。

参考【がん(悪性新生物)患者数の年齢階級別状況】50代までは女性の方が多く、30代で男性の3.3倍、40代で2.4倍。乳がんや子宮がんなど女性特有の病気が30代以降に増えるため。 ©ネット生保@lify.jp

参考【がん(悪性新生物)患者数の年齢階級別状況】50代までは女性の方が多く、30代で男性の3.3倍、40代で2.4倍。乳がんや子宮がんなど女性特有の病気が30代以降に増えるため。 ©ネット生保@lify.jp

国立がん研究センターが発表した最新のデータを見ても、女性ががんを発症し始めるのは30歳代後半から40歳代となる。
一方で、男性ががんになる時期は50歳代以降が顕著だ。

つまり、女性ががんと向き合い始める30歳を過ぎたころ、その夫たちにとって、がんとはまだまだ遠い存在なのだ。

「がんは、うつる」

この無責任な言葉を、がんになったとき自分の夫から聞いて、女性たちが冷静でいられるわけがないのだ。


光安 和紀 (みつやす・わき)

seki-yuuji
1978年東京都生まれ。現在、フジテレビ『とくダネ!』にてディレクターとして働く。テレビ業界に入って12年目。生放送の番組に携わっているため、深夜業務が続く日が多いが、徹夜明けのビールと焼肉を日々の励みにしている。座右の銘は「切磋琢磨」「一期一会」。好きなタレントはV6の岡田准一さん。放送前になると精神的に追い込まれて、VTRが間に合わない夢を見ることが最近の悩み。