第3回  あなたが“がん”になる確率、“がんになったあなた”が生きる確率

とくダネ発!がん離婚


今これを読んでくださっている方が、何歳なのかは分からない。
だが、前回書いたように、男性よりも女性の方が人生において、「がん」を身近に感じる時期はずっと早くに訪れる――。そうは言っても、がんでない人は「いつか自分ががんになる」という意識をどのくらい持っているものだろう? 
現在、30代半ばの私自身は、自分の家族にがんで亡くなった者が何人かいることもあり、『とくダネ!』でがんをテーマに取材を始める前から、なんとなくではあるが、「私もいつかがんになったりする日がくるんだろうな」という、漠然とした思いはある。
とはいっても、あくまでも、“なんとなく”。
なんとなく、日本人はがんが多いものだし……。
なんとなく、事故にあったりするよりも、がんになる確率の方が高そうだし……。

この“なんとなく感”は、結局がんという病気が、自分の身に現在進行形で起こっていることではないからだ。そして、本音のところで思っているのは……「家族にがんで亡くなった人はいても、なんとなく、自分はたぶん大丈夫」。

私が取材した女性たちも、全員が打ち合わせたかのように同じく口にしたのが、
「まさか自分ががんになるなんて、思っていなかった」
という言葉だった。
「まさか自分がなるわけない」と多くの人が思っている“がん”を発症する確率は、今どのくらいなのか? それは……2人に1人。
この数を、どう思うだろうか? 思ったより多い? それとも、そこまで驚かない確率?
では、次の確率はどう思うだろう。

「がんになっても、生き続ける女性は6割以上」
(※生き続けるとは、医学的には「がんが発覚後、5年以上生存している」という定義)

部位別5年相対生存率(女性・2003~2005年)。あるがんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合が、日本人全体で5年後に生存している人の割合に比べてどのくらい低いかを表す。男性55.4%、女性62.9%。

部位別5年相対生存率(女性・2003~2005年)。あるがんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合が、日本人全体で5年後に生存している人の割合に比べてどのくらい低いかを表す。男性55.4%、女性62.9%。

私が驚いたのは、こちらの確率だった。
もちろん、がんによって、かなり差はある。発見が遅れがちで進行の早い、すい臓がんや胆のう、胆管がんなどは、かなり厳しいデータとなっている。しかし、女性に最も多い乳がんに至っては、生存率は9割にも及ぶのだ。
今の時代、がん=「死」では、ない。がんと共存して生きている人は、たくさんいる。
これはがん患者さんたちに勇気を与える事実だと思う。
だが、言い方は悪いかもしれないが、死ねないからこそ、妻ががんになったとき、夫婦の間ですれ違いが生まれてしまうのだという。

全がんの死亡率の推移。がんで死亡する人は、男性にくらべ女性が圧倒的に少ない。

全がんの死亡率の推移。がんで死亡する人は、男性にくらべ女性が圧倒的に少ない。

私が『とくダネ!』で“がん離婚”について放送した際に、深くかかわってくれた上司がいる。
企画コーナーのトップである尾形征輝チーフだ。

尾形さんは、専業主婦の妻と2人の息子を食べさせている立派な父親で、当時40歳。
仕事もできるし、ディレクターからの信頼も厚いが、私たちが休みなく働いている一方で、「土日は絶対に仕事をしない」と公言し、その間、プライベートも充実させている(らしい)。テレビ業界の人には珍しく、いわゆるワークライフバランスを確立させている、デキる男風な人だ(断っておくが、悪口ではない)。
その尾形チーフに、私はこの「がん離婚」の企画会議のときに、こう話した。
「今が、がん=「死」ではないからこそ、夫婦でもめるんです。ひどい話だと思いませんか?」

だが……尾形さんは、私の言葉に、呟くようにこう言った。
「……たしかに。分かるかも」
えっ? こんなに家庭思いに見える尾形さんが、そう言う!? ……衝撃的な一言だった。

「この人、実はヒトデナシだったか?」と、一瞬思った(もちろん声には出さなかった)。
そして尾形さんは、言葉を続けた。
「期限が3カ月、とか、終わりが分かっているのなら、毎日『大丈夫?』と優しく看病したり、その間、仕事を休職してでも奥さん支えてあげよう、とか思うけど。終わりがない、となるとなぁ……。子供もいるし、仕事も辞められないから、今の生活を変えるわけにもいかないし……。毎日家で、具合悪そうにして待たれていたら、ちょっとなぁ……」

私はある意味、絶句。心から尊敬していた上司が、こんな鬼夫のような発言をするなんて……サイテー。そんな独身女性の私の気持ちが読み取れないのだろう、
「夫婦の間にはね、キレイごとでは誤魔化せないものがあるんだ!」
と主張する上司を、あの時、冷ややかな思いで見ていた。

しかしその後、取材を進めるうちに、私は現実を知ることになる。
そして、「ろくでもないことを言い出した上司の意見の方が正しいのかもしれない」と思い始めた。そんなふうに心が動いてしまったのは、とても悲しいけれど……。


光安 和紀 (みつやす・わき)

seki-yuuji
1978年東京都生まれ。現在、フジテレビ『とくダネ!』にてディレクターとして働く。テレビ業界に入って12年目。生放送の番組に携わっているため、深夜業務が続く日が多いが、徹夜明けのビールと焼肉を日々の励みにしている。座右の銘は「切磋琢磨」「一期一会」。好きなタレントはV6の岡田准一さん。放送前になると精神的に追い込まれて、VTRが間に合わない夢を見ることが最近の悩み。