Vol. 7 オトヒメハダカとオッパイトカゲハダカ:「ハダカ」と名のつく深海魚




みなさん、こんにちは。
尼岡邦夫です。

前回、お腹にたくさんの発光器を持った“深海の星座”=ハダカイワシのお話をしました(「Vol. 6 ハダカイワシのヤイトと星座:深海と宇宙、どちら派ですか」参照)。
ところで、ハダカイワシとはおもしろい名前だと思いませんか? 実は、深海には「ハダカ」と名のつく魚がたくさんいます。

第7回目は、「ハダカ」と呼ばれる深海魚たちの、和名にまつわるお話です。



ハダカイワシの名前の由来は?

ハダカイワシ科は日本から87種が知られていますが、3種を除いて、語尾にはすべて「ハダカ」がついています。おもしろいものを挙げてみると、ハゲクロハダカ、ブタハダカ、アラハダカ、ウスハダカ、ミカドハダカ、エビスハダカ、ダイコクハダカ、オトメハダカ、カタハダカ、マヨイハダカ、等々。マルハダカはありません。では、この「ハダカ」にはどういう意味があるのでしょうか?   ハダカイワシ類は、網でたくさんまとまって捕れることがありますが、その多くが体の皮膚がむきだしになった状態です ( 図1 ) 。鱗が薄く、それぞれのつながりがゆるいので、網やほかの魚などに触れたときに簡単に鱗がはがれてしまうのです。その様子から、「裸鰯=ハダカイワシ」と呼ばれるようになりました。


図1 鱗がとれて皮膚がむきだしになったドングリハダカ




裸に見える魚たち

「ハダカ」の名を持つ深海魚の科名には、ハダカイワシ科のほかに、ギンハダカ科、チョウチンハダカ科、ハダカエソ科、ハダカイワシ科、トカゲハダカ科などがあります。そして、それぞれの科に含まれている種の和名には、「ハダカ」が入っているものが多いです。 いずれももともと鱗がないか鱗がはがれやすい、あるいは体表の色素が薄いもので、その様子が「裸」を思わせます( 図2 ) 。


図2 もともと鱗を持たず、皮膚の色も薄い ( 上 : ヤセハダカエソ / 下 : コンニャクハダカゲンゲ )




「乙姫の裸」にちょっと待った !

以前、ギンハダカ科のリュウグウハダカに近縁の新しい種が捕れたときのことです。正式な和名がつく前、私たちはその魚を竜宮城にちなんで「オトヒメハダカ」と呼んでいました。しかし、いざ正式な和名として発表するとき、クレームがついたのです。乙姫の裸を連想させたのがいけなかったのでしょうか ? ただ、ハダカイワシ類には「オトメハダカ」という魚もいます。乙女はよくて、なぜ乙姫はいけないのか ? その違いをきいてみたいですね。
また、その後にもこんなことがありました。トカゲハダカ科の仲間で、下あごから出たヒゲの先端が半球形をし、その先に小さい突起がある新種を発見し、私たちは船上で仮に「オッパイトカゲハダカ」と呼んでいました。しかし、この名前で発表しようとしたところ、これも却下。結局、「ヤリトカゲハダカ」( 図3、4 ) という名前になりました。「裸」という言葉自体は禁止用語ではありませんが、前後の言葉の組み合わせによっては確かによくないイメージを与えるかもしれません。和名をつける際には、気をつけなければいけません。それ以後、上品な名前を付けるよう心がけています。 










図3 ヤリトカゲハダカ




図4 ヤリトカゲハダカの下あごのヒゲの先端

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