Vol. 10 今、世間を騒がす深海魚たち② : 日本海で次々に捕獲される謎




みなさん、こんにちは。
尼岡邦夫です。

前回、相次ぐ水揚げですっかり有名になった深海魚、リュウグウノツカイとサケガシラについてお話しました(Vol.9「今、世間を騒がす深海魚たち① :リュウグウノツカイとサケガシラ」参照)。
今回はその続きです。
最近なぜ、日本海で深海魚が次々と揚がるのか。その謎に迫りたいと思います。



フリソデウオと
テンガイハタ

リュウグウノツカイやサケガシラに混じって、フリソデウオやテンガイハタの水揚げのニュースもよく耳にします。しかしこれらは、捕られるのはいずれも幼魚のようです。フリソデウオの幼魚もリュウグウノツカイなどに似て、体は扁平ですが、著しく短いです。数本の長い背鰭とその後に半月形に大きく広がる背鰭を持っています。9~10本ある腹鰭も長く、尾鰭の付け根付近まで伸びています。フリソデの名前の由来です。体は銀白色で、全身を灰色の小さい斑紋が覆っています。


フリソデウオ
テンガイハタの幼魚も体は扁平していて、背鰭や腹鰭の様子もフリソデウオに似ています。また、尾鰭の上葉がうしろに向かって著しく伸長し、まるで貴人の寝台に設えられた天蓋のような優雅さがあり、これが和名の由来のようです。体は銀白色で、5~6個の黒い斑紋が見られます。 







テンガイハタ



リュウグウノツカイや
サケガシラが属する
アカマンボウ目って?

リュウグウノツカイはリュウグウノツカイ科に属し、日本からは1属1種しか知られていません。サケガシラとテンガイハタはフリソデウオ科サケガシラ属に入ります。その他にフリソデウオ科にはフリソデウオとオキフリソデウオを含むフリソデウオ属と、ユキフリソデウオのみを含むユキフリソデウオ属がいます。


アカマンボウ
実はこれらの魚はすべて同じ仲間で、アカマンボウ目という分類群に含まれています。みなさんが思い浮かべるフグ目の「マンボウ」とは全く別の仲間で、体がマンボウのような円盤型をしたアカマンボウ科やクサアジ科、体が細長くオデコが垂直かあるいは前方に著しく飛び出したアカナマダ科なども含まれます。世界中の温帯から熱帯域の外洋に広く分布する仲間です。


アカナマダ




地震の予兆? 
深海魚、続々水揚げの謎

深海魚の水揚げが相次ぐと、地震が起こるのではないかと騒がれたりします。テレビでも、コメンテーターが海底の地殻変動の説を唱えているのを見ました。また、時化によって海水がかき混ぜられて上に浮いてきた、あるいは、今までも捕れていたが最近の深海魚ブームで注目され騒がれているだけといったコメントをされる方もいました。しかし私は、海況が気象のように年や季節によってずいぶん変化があり、それがこの騒ぎの要因のひとつなのではと考えています。 日本の太平洋側には南から暖流の黒潮が北上し、日本海側にはその支流が対馬暖流(海流)となって北上しています。立ち泳ぎをしているリュウグウノツカイやサケガシラは強い遊泳力がないためにこれらの暖流に乗って移動しています。 日本海は盆地のような地形で、下層には15℃以下の冷たい水の固有の層があることはよく知られています。この層が最近、海況の変化でより上層部まで上昇し、より日本側に押し出しているのではないかと私は推測しています。
近年、リュウグウノツカイやサケガシラなどの捕獲が相次ぐのは、彼らが暖流に乗って移動する過程で、この冷たい層に遭遇する機会が多くなったからではないでしょうか。暖かい海を遊泳していたはずがこの層に遭遇し、低温のために体が弱って、表層近くまで続々と浮き上がってきてしまい、定置網に入ったり、時化のときに風や波で岸に打ち上げられるというわけです。

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