Vol. 19 頭より大きな口の魚




みなさん、こんにちは。
尼岡邦夫です。

突然ですが、皆さんの口はどのくらいの大きさですか? 人によって大きさは違うと思いますが、多くの方が、顔の半分より下に、上品なお口をお持ちかと思います。大きな口が魅力の方でも、まさか頭より大きいということはありませんよね。
魚の口は実にさまざまで、おちょぼ口からガバッと開く大きな口まで、種類によってはとてもユニークな口を見ることができます。大きな口といって皆さんが思い浮かべるのは、横一文字に大口を開くアンコウかもしれませんが、深海には、そんなアンコウも目じゃないほど大きな口を持った魚もいます。

第19回目は、信じられないほど大きな口を持った、フクロウナギについてのお話です。



口の上に頭を乗せてみました

ふつうは、口が頭に付属しているものです。口を大きくしたいのならばアンコウのように頭を大きくします。口が頭より大きくなれば、頭が口に付属していることになり、逆転してしまいます。まさか、通常はそんな現象は考えられません。
ところが、このフクロウナギ ( 図1 ) には、そのまさかのことが起こっています。なんと頭蓋骨が、大きな上顎 ( うわあご ) の上にちょこんと乗っかっているのです。顎の大きさは尋常ではなくて、上顎の長さは頭蓋骨の7~10倍近くもあります ( 図2 ) 。

図1 フクロウナギ


図2 フクロウナギの頭の骨格 : 上顎の上に小さな頭蓋骨が乗っているのがわかる
( Bertin 1934より )




体を立ててこうもり傘を開く

何故このような姿になったのでしょうか。それはこの魚のエサのとり方によるものです。アンコウの大口は接近してきた大物を一口で捕まえて、のみ込むことができます。しかしフクロウナギはそのようなことをしません。先ず、体を立てて獲物に近づき、大口を上にします。口は折りたたまれた袋のようになっていて、こうもり傘のように開きます。そして獲物がその中に入ってくるのを待ちます ( 図3 A・B ) 。  まだ知られていませんが、何か獲物を引き寄せる物質を出しているか、あるいは口の中に発光器があって魅惑的な光を放っているのかもしれません。小さなエビ類が入ると、頃合いをみて口を閉じ、鰓孔 ( えらあな ) から水を外に排出して口を絞ります( 図3 C・D ) 。実際の行動はまだ観察されていませんが、見てみたいものです。


図3 フクロウナギのエサのとり方 ( Nielsen, Bertelsen and Jespersen 1989より )



雪の中に現れたアンコウ!?

余談ですが、私はこの冬、アンコウの大口にのみ込まれました。これがそのときの写真です。年末年始に遊びに来ていた孫たちと作りました。ルアーもついて、なかなかよくできていると思いませんか?



※出典
『深海魚ってどんな魚』

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