Vol. 15 スポイトっぽい口の深海魚?




みなさん、こんにちは。
尼岡邦夫です。

深海はとても広く暗いため、食べ物を確保するのが大変です。そのため、確実にエサをとらえられるよう、深海魚は大きな口をもったものが多いです。しかし、なかには小さな口の深海魚もいます。小さな口の深海魚はどのようにエサを食べているのでしょうか。

第15回目は、小さな口で驚くべき特徴をもった、スタイルフォルスについてのお話です。


スタイルフォルスってどんな魚 ?

成魚でも30センチほどにしかならない、深海魚のなかでは比較的小さな魚で、体は細長いリボン状です。背びれは頭のうしろから尾びれの基部までついていて、そのうちの前の2本が糸状に長くのびています。尾びれの下半分も糸状に長くのびています。短い胸びれは飛行機の翼のように水平についています ( 図1 ) 。
この夏、日本海でたくさん捕れてお騒がせしたリュウグウノツカイ ( 図2 ) 、サケガシラなどと同じアカマンボウ目の仲間で、彼らと同じように立ち泳ぎをしていると考えられています。全世界の海洋の水深300~800メートルにすんでいますが、日本の深海からはまだ報告されておらず、和名もありません。
ちなみに、アカマンボウ目は「マンボウ」と名がついていますが、みなさんが思い浮かべる「マンボウ」はフグ目で、まったく別の仲間です。

図1 スタイルフォルスの標本写真 ( 写真個体 体長27.2cm )


図2 スタイルフォルスと同じアカマンボウ目のリュウグウノツカイ ( 写真個体 体長220cm )



チューブアイで獲物を見つける

実は、スタイルフォルスについて、以前このブログで紹介したことがあります。第8回目の「望遠? 管目? 樽目? : 特殊な目を持つ深海魚」を見てください。ここで、管の先に目を持つ魚=「チューブアイ」「管目魚」として登場しています。まずこの特徴的な目で、前方にいる獲物を確実に見つけて、目標を定めます ( 図3 ) 。図3 スタイルフォルスの管目
図3 スタイルフォルスの管目



スポイト口でバキュームのように吸う

そして、いざ獲物に近づくと、スタイルフォルスの顔は普段からは想像もできない変化を見せます。口の位置は動かさず、頭 ( 頭蓋骨 ) の部分を思い切り引き上げると、なんと頭蓋骨と口の間から折りたたまれて隠されていた蛇腹 ( 袋 ) が開くのです ( 図4 ) 。そのときの強い吸引力を利用して、スポイト口から獲物を吸い込みます。 歯がないので、吸い込んだ獲物を噛むことはできませんが、もともと口が小さいので大きな獲物は食べられません。小さな獲物を、バキュームのように吸い込んで、栄養を得ています。
現在、このような特徴を持っている魚は、このスタイルフォルスしか知られていません。日本の深海からは見つかっていませんが、いつか生きているときの生態を観察してみたいものです。


図4 エサを吸い込むしくみ : A・B獲物をねらっているところ / C・D袋を広げて一気に餌を吸い込むところ ( A・B Pietsch氏提供 / C・D Pietsch1978より )


※出典
『深海魚ってどんな魚』


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